税したのに確定申告の還付金が8%も減少した」

こんなショッキングなニュースがアメリカから飛び込んできました!

2018年の税制改革で大企業と富裕層に減税、社会保障はカット

メリカでは昨年2018年、トランプ政権のアメリカ・ファーストのスローガンの下、与党共和党主導で大企業の法人税率を恒久的に大幅に引き下げる減税や個人の所得税率を変更する法律を採決しました。

もともと「俺は頭がいいから17年も税金は払ってない!」と大統領選挙直前の討論会でものたまわっていたトランプ大統領。2018年の減税法案の成立前には「アメリカの税制は複雑なので簡素化するべき」といったこともいっていました。その一例として、当時「7つに分かれている所得額と累進税率の対応表を、4-5つにしては」、ということも言っていました。しかし、ここでトランプ大統領と議会共和党内部上院と下院の間でバラバラの思惑が行きかいます。結局、大企業や業界団体のロビイイストも介入し、

  • 法人税は大幅に恒久減税
  • 個人所得税の累進税率の対応表は7つに分かれたままで、簡素化には程遠い
  • 高額所得者の税率も引き下げ (お金持ちのトランプファミリーも数十億円の減税の恩恵を受けた)
  • 中間層の所得税率は0.5-1%引き下げられた部分もあるが、税率を決める所得額自体が変わり、さらにこれまであった一部の控除額が半減。さらに多くの減税施策は3-5年の期限付き

という、絵に描いたような「トランプ大統領のお友達の富裕層や大企業に有利で、庶民は見殺し」の税制改革となりました。

同時に、財政規律を求めるのが党是で保守基盤の共和党は、「歳入が減るので」という理由で、2018年の予算で貧困層への食費援助や健康保険の援助(メディケイド)など、社会保障やセーフティーネットを大幅にカットしました。

財政赤字拡大の懸念に対し、ムニューシン財務長官などトランプ政権は

減税による経済活性化で、経済成長率は4%近くに伸び、結果的に歳入額は減税額よりも増えるだろう

と夢のような話でごまかしていました。いわゆる「トリクルダウン」理論です。

大企業は自社株買いとCEOへのボーナスで、法人税減税の恩恵は庶民に回らず

ところが、こういうトリクルダウンとは、日本のように行政府と経団連(大企業経営者)と連合(労働組合)での三者会合などで、「減税してやるから、そのぶん、雇用や賃金を増やしてね」といった約束で企業経営者を縛るルールがないとまったく働きません。日本のように、これだけ根回ししても、下請け企業までにはなかなか恩恵が回らないくらいです。

自由と資本絶対主義のアメリカでは、何の交渉も無く減税だけしてもらった大企業経営者は何をするかというと、

  • 自社株買いで敵対的買収などがおきないようにする(減税額の8割はこれにまわったとか)
  • 自分たち経営者への高額ボーナスをさらに増やす
  • トランプ政権の保護主義のおかげで、経済の先行きに不安があり、設備投資や雇用増にはあまり興味なし

という分かりやすい結果になり、トリクルダウンはまったく起きませんでした

庶民の源泉徴収税額は週に1ドル(約110円)くらいしか下がらなかった

個人の所得税率もたとえば11%だった所得層で10.5%に変わったくらいなので、2週間毎のペイチェックからの源泉徴税額は、給料の額にもよりますが、人によっては週に1ドル程度しか下がらなかったそうです。

これだと、いくら楽天的なアメリカ人でも、

減税があったから、消費にお金を使おう!

とはなりません。つまり、景気刺激策にならなかったのです。

確定申告の還付金が減り、人によっては追加で納税が必要に

明けて2019年。1月下旬からアメリカの国税庁(IRS)で、確定申告が始まりました。アメリカの源泉徴収では、扶養控除や住宅ローンなど控除額などはあまり考慮されず、年末調整も無いため、ほとんどすべての所得がある人は確定申告が必要です。アメリカでは地域ごとに税務署などは置いていないので、ほとんどが郵送での確定申告になります。

年が明けると雇用主からW-2という源泉徴収票のようなものが郵送で送られてきます。これをベースに、自分で確定申告書を記入してもいいですし、地元のスーパーにも税理士・会計士事務所が出張ブースを構えているので、そうところで記入してもOKです。地域によっては図書館やコミュニティーセンターで無料確定申告相談会を開いてくれるところもあります。

この確定申告書と一緒に、追加で納税が必要な人は小切手を同封します。還付金がある人は小切手が送られてくるのを待ちます。アメリカ人の多くはこの還付金を非常に当てにしており、これで借金を払ったり、パーっと使ってしまったりするので、春先の景気へ影響は大きいです。この還付金が届くころには、お店も「tax return sale(還付金セール)」を開催するくらいです。

しかし、2019年の確定申告では、昨年と比べて平均で2035ドルから1865ドルへ、8.4パーセントも減少しているようです

※2000ドルも還付される人なんてそんなに多くないと思うんですが、ここが「平均」のマジックです。

さらに困るのが、予想外に追加で納税が必要になった人。「アメリカ人の40%は非常時用の貯蓄が400ドル(4万円)もない」というくらいなので、急に「10万円払え」といわれても、まったく対応できません。日本と違ってアメリカの法律施行は容赦がありません。無申告の脱税で牢屋に入れられるのは困るので、親戚じゅうに慌てて電話してお金を貸してもらったりしている人も多いようです。何しろ一回逮捕されると保釈金を払わないと出てこれませんが、「保釈金が払えない」という理由で何年も拘留されている人も数万人といわれていますし、絶望して拘留中に自殺する人もいます。裁判を受ける前なのに、ですよ。

アメリカでは1月中、史上最長35日間の政府の一部閉鎖もありましたし、摂氏マイナス50度という寒波も襲っています。この2019年1-3月期のGDP成長率など経済統計が、その後の株価・為替などにも大きく影響し、日本の景気にも跳ね返ってきますので、日本からも注視が必要です。